路上観察と琺瑯看板、マンホールのふた
お散歩 Photo Album

 
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84.蒸発タイプ4 


ムジナ

NTT笠岡支店の看板

NTT笠岡支店。建物の壁に寺内貫太郎のような(古すぎ)おっちゃんが描かれていました。横に置かれた電話機からは「NTT」の形をした電波が出ていて、奥にいるおばあちゃんとつながっています。


小泉八雲の『ムジナ』――。
むかしむかし、赤坂の紀伊の国坂を一人の男が登っておりました。途中まで行くと、うら若き女性が道端で泣いているではありませんか。男は心配し女性に声をかけました。お嬢さんどうなすったのです?

娘さんは振り向き、着物の袖を顔の前で動かしました。するとあ~らフシギ、娘さんの顔のパーツが瞬時に蒸発したではありませんか。

男はあわててそば屋に駆け込みます。てっ……てぇへんだっ、今な、すげぇもん見たんだよ。それがどんなもんかはとてもじゃねぇが言えねぇ……。
男の話を聞いたそば屋はなぜか娘さんと同じ仕草をしました。すると同じように、そば屋もまたのっぺらぼうになってしまったのです。


このおばあちゃんがのっぺらぼうになってしまったのは、ムジナが化けていたのではなく、電話をするたびに、じわじわとエクトプラズムが抜けてしまったからではないでしょうか。電波に乗ってきたエネルギーを吸い取った、息子であるガンコおやじはますます絶好調で、「電話はNTTに決まってんだ」とのたもうております。

魂が抜けてカオナシになってしまったおばあちゃんですが、笑顔の可愛い人だったのでしょう。のほほんとした猫の顔と脇の水筒が、在りし日の(いやまだご存命ですが)人柄を彷彿とさせています。

2005年9月 岡山県笠岡市

(2006年9月3日作成)